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第5話・付き合うまでのお試しデート その11

Author: さぶれ
last update Last Updated: 2025-05-02 20:00:57
「白紙だ」

 玄さんが私に中身を見せてくれた。ハガキの大きさの、何時も幼稚園に届くものと同じ白い用紙には、彼の言う通り何も印刷されていなかった。

「はく…し」

 それを見て余計に混乱する。

 あおいさん、一体どういうつもりなの――?

「憶測だから真意は定かではないけれど、この封筒を投函した人物は眞子を怖がらせることが目的だろうな。幼稚園になら、不特定多数の誰に送ったか言い張れるが、君のマンションのポストだと話は変わってくる。確実に眞子を狙っている。警察なんかに相談されても、真っ白の封筒をポストに入れた程度では、ストーカーや嫌がらせ行為として考慮してもらえない。なかなか厄介な相手だな」

 あおいさんは厄介な相手――なるほど。だからSNSでも写真からターゲットを絞って私に辿り着いたりできたんだ。SNSもくまなく探せば、私が幼稚園の教員をやっていることはわかるだろうし、更に辿ればさくら幼稚園勤務ということがわかるかも。過去に園行事の事に触れたり、卒園式の事を書いたりした。勿論、写真はアップしたりしていないけれど、×月×日、今日卒園式で、というような内容から、その日行事があった園を探せば、大体アタリを付ける事ができる。

 ほんの少しのヒントから、あっという間に辿り着くことができる怖さ。

 SNSって、本当に怖い。もう絶対やらない!

「とにかく、眞子の知り合いの男性に、その女性からのつきまといを止めるように言ってもらった方がいいな。俺と付き合っていると、そういう風に言えばいい」

「え…そんなこと言ってもいいの?」

「眞子が俺との付き合いを本当にオーケーすれば話が早いんだけど」

「それは…もう少しお互いのことをよく知ってから……」

 どうしてお付き合いをする方向に持って行こうとするんだろう?

 こんなハイスペックな男性が、私みたいな平凡な幼稚園教員に情熱を傾けてくれるなんて、なにか理由が無いとおかしい。やっぱり反社なの…?

「まあいい。慎重な方が眞子らしいし、攻略し甲斐があって燃える」

 ゲーム感覚なんだろうか。私を落とせるかどうか、みたいな?

 だったら嫌だな。やっぱりこの人に心を傾けるのはダメだ。気を付けよう。

「とにかく今は気を付けることだな。毎日電話して安否確認しよう。眞子に連絡が取れない時は、さっき教えてもらった自宅に向かうようにする。いいか?」

「うん
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